布団に入っても手足が冷たく、なかなか寝付けない。部屋は温かいのに、手足だけがやけに冷たい。そんな「冷え」のお悩みを訴える方が最近増えています。
もともと人間のからだには精巧な体温調節装置ともいえる自律神経が一定の体温を保つように働いています。しかし、一旦それがうまく機能しなくなると血行が乱れ抹消血管が血行不良になり手足などの末端部分の冷えの症状を引き起こします。また、からだの筋肉が多いほど熱エネルギーを産み出しやすく女性は男性より筋肉量が少ないため冷えやすいと考えられています。高齢者の方の場合は、加齢に伴い筋肉の量が減り血液の循環や代謝機能が低下するため冷えに悩む方が多くなります。さらに高齢者の方の場合は体温が下がっているにも関わらず温熱感受性の低下により冷えを自覚できないことさえあるためなおさら注意が必要です。
冷えは単に快・不快の問題ではなく、免疫力を低下させさまざまな心身の不調を引き起こします。ミネラルやビタミンが不足しがちな偏った食生活。自律神経やホルモンバランスの乱れ、ストレス、運動不足。加齢による筋肉量の減少や新陳代謝機能の低下・・。
栽培技術の進歩や流通システムの発達により、私たちは冬でも夏が旬の野菜や果物をいただくことが出来ます。それだけ食が豊かになったともいえますが、もともと夏が旬の食べ物には体を冷やす性質があるため、現代の私たちは寒い季節にわざわざ体を冷やす食べ物を食べているといえるのかも知れません。
漢方では食べ物には体を温める性質と、体を冷やす性質があるという観点から、すべての食べ物を「熱、温、平、涼、寒」と5つに分類。これを「食性の五性」と呼んでいます。例えば冬に採れるカボチャやショウガなどの野菜や根菜類は体を温める食品。夏に採れるキュウリやトマトなどの野菜は体を冷やす食品です。このような食性を知って、体調に応じて偏らないよう上手に使い分けたいものです。
栄養素的にはタンパク質、脂肪、炭水化物の三大栄養素をバランスよく摂ることが大切です。食べること自体で体温は上がります。即ち消化管の活動や肝臓の代謝などが活発になり熱が発生します。三大栄養素のなかでも特にタンパク質はこの性質が強く、約3割もこれに使われます。もちろんタンパク質は熱を産生する筋肉の構成要素にもなりますし、タンパク質を効率よく代謝するためにはビタミンやミネラルの助けが必要です。
食事で体温を上げるという観点から朝食はとても大切です。睡眠中は代謝が低下し体温も低くなっていますので、朝食をきちんと食べることで代謝を高め体温を上昇させることにつながりますから、頭や体のスイッチをオンにしやすいでしょう。
規則正しく、温かくて消化のよいものを食べること。食性も栄養面もバランスよく、出来るだけ季節ごとの旬の恵みをいただいて冷えに対処しましょう。
梶原 苗美 先生
私たちの生活の中では、運動不足や睡眠不足、栄養の偏りといった不規則な生活や、仕事、人間関係などによるストレスが原因で、肩こりや冷え症にかかりやすくなります。過剰なストレスは交感神経活動を高め、血管収縮から血行不良や低体温の状態をつくるからです。
私たちの行った調査においても、病気という程ではないけれど体調の悪さが気になる『未病』の方が多く、その症状の多くは「肩こり・腰痛」「冷え症」で、特に冷え症自覚者の約7割が女性でした。また自ら血行不良と感じていると答えた方も女性が多く、血行不良による冷えが原因で未病が現れていることを実感してい
ました。
女性に多い症状ですが、男性にも同様の症状を感じていらっしゃる方は少なくありません。特に喫煙や冷たいビール、職場のストレスなどは体調不良のもとになりますのでご注意ください。また、男女ともに年齢が高くなるほどこれらの症状を自覚している方が多くなります。歳を取ると体温調節機能が低下し、外部の温度変化の影響を受けやすくなります。もちろん筋肉量の低下によっても体温は低下しやすくなります。
これらの対処法は、リラックスして交感神経の緊張を緩めること、体を温めること、食事からの吸収を高めることです。入浴の専門家である私たちとしては、ぬるめのお湯にゆっくり入浴して、しっかり体を温めてリラックスすることをお勧めします。また、体を温める食品を摂って血行を良くし、お腹の状態を整えることもたいへん有効です。
冷えが続くと、各臓器の機能低下を招き、あらゆる病気の要因になります。ぜひ毎日の生活で、体を温める習慣を取り入れていただきたいと思います。
石澤 太市